今回は、西田皓一先生の著書である「東洋医学見聞録」から寝違えにおける鍼灸治療について考えていきたいと思います。
本書は上巻・中巻・下巻の全3冊から成り立っており、運動器疾患や内臓疾患、難病までさまざまな疾患における鍼灸治療について書かれています。
東洋医学見聞録 上巻 初心者でも再現性がある鍼灸治療の実際 [ 西田 皓一 ] 価格:3520円 |
今回はその中から寝違えについてピックアップしていきます!
以前は肩こりについての項目も記事にあげているのでそちらもぜひチェックしてみてください
寝違えの基礎知識
鍼灸治療について考えていく前にまずは寝違えについて原因や症状の特徴を押さえておきましょう。
概要
誰しも1度は経験したことがある症状だと思います
朝起きると首が痛い、首が動かない。数日経てば自然と治るものではあるのですが、その数日が数十日に感じられるほどの苦痛を伴うものです。
その苦痛から1日、1分、1秒でも早く解放されようと鍼灸治療を求めて来院する患者さんはかなり多いように感じます。
原因
寝違えの原因には次のようなものがあります。
- 睡眠時の不自然な姿勢
- 著しい冷え
- 枕があっていない
このような環境下で睡眠をとることにより、頸部の筋肉が長時間にわたって過度に引き伸ばされたり、冷えによって血流が滞ったりすることで起こります。
治療の実際
基礎を押さえた所で鍼灸治療について詳しく見ていきましょう!
寝違えは現代医学の治療法では即効性という観点から見るとほぼ皆無です。
整形外科を受診したとして、湿布を貰うか電気を流しすくらいが精一杯です。
しかしながら鍼灸治療においてはその場で寝違えによる首の痛みを和らげることが出来ます。
寝違えを一発で治せるか否かで患者の信頼、評価が変わってきます。
本書には5つの治療法が紹介されているので1つずつ詳しく見ていきましょう。
落枕穴
言わずと知れた寝違え治療において代表的な経穴の1つです。
場所は手背部第2、第3指の中手骨間の中手指節関節の上方5分に取ります。
圧痛が出やすいため取穴もしやすいのが特徴です。
一見関係のないような場所にある経穴ですが、
「有名な経験穴であるこの穴は、手、足、耳など身体の一部分が全身を投影する。という理論から捜し出された経穴である。」
東洋医学見聞録 上巻
と本書には記載があります。
手には腰腿点というぎっくり腰の特効穴もあるようにこの理論は調べがいがありそうです。
どのように思い立ち、どのように捜し出したのかは定かではありませんが、先人たちの経験、努力が集約されている経穴ですね。
ここに刺鍼した状態で首の運動を一緒にしていくと効果もさらに高まるとも言われています。
奇経帯脈を利用した治療法
次は奇経を使った治療法
奇経を使った治療は即効性に優れます。
そのため、寝違えのような急な痛みには奇経を用いた治療が効果的です。
基本は帯脈の主治穴である足臨泣とそれに対応する陽維脈の主治穴である外関への刺鍼で十分だが、ここに帯脈穴を加えることでさらに効く。と説明されています。
奇経帯脈は章門、帯脈、五枢、維道の4穴からなり、帯状に身体を一周するように流れており、ここの部分で締め付けが起きていると上肢は上がりにくく、首も腰も動かしにくくなります。
反対に、緊張を取ってあげればそれらの動きが出てきます。
奇経帯脈を用いた治療は寝違えはもちろんのこと、肩や腰の症状など、治療範囲が広いのが特徴です。
懸鐘穴を使った治療
首の痛みなのに足の経穴を使う。と聞くと患者さんからしたら驚くだろうなと思います。
しかし、経穴理論から考えると足の少陽胆経の流れは頸部を流注するため、胆経に属する経穴である懸鐘穴を使うのは非常に合理的であると言えます。
懸鐘穴の場所は腓骨の前方で外果尖の上方3寸。
胆経が流注する側頸部の痛みに対しては非常に有効です。
これも落枕穴と同じく置鍼した状態で首を動かすことでより高い効果が期待できます。
後渓と人中
人中は督脈に属する経穴です。
後渓は手の太陽小腸経に属する経穴であり、督脈の主治穴でもあります。
また、手の太陽小腸経は督脈の大椎穴に通じるため、督脈との関係性がとても強いです。
それぞれの流注を見ると督脈は正中部を、小腸経は肩の後ろから首の外側を流れます。
そのため、後頚部などに痛みがある場合は特に効果を発揮するのが特徴です。
人中穴はなかなか使うような場所ではありませんが頭の片隅には入れておきたいですね。
後渓穴は本書に何度も登場しており様々な使い方があるんだなと感じます。
いろんな使い方を模索していってみたいです。
落頚穴
自分も本書を読むまではこの穴を知らなかった経穴です。
この経穴は奇穴であり、側頚部や前頚部に痛みがあるときに使うと良いとされています。
寝違えて首の痛みがあるが僧帽筋や後頚部を押さえても痛みがない場合は前側の胸鎖乳突筋や斜角筋を押さえてみると強い痛みが出ることが多いです。
自分も寝違えるときはこのケースの方が多かったりします。
そういったときに用いるのがこの落頚穴。場所は天容穴と天窓穴の中間。
天容は下顎角の後縁、天窓は喉頭隆起の高さで胸鎖乳突筋上にあるので、その間に取ります。
刺鍼するとちょうど胸鎖乳突筋や斜角筋に当たります。
そのため、原因となる場所にしっかりとアプローチすることができます。
前頚部には神経や動静脈が複雑に走っているため、安全な刺鍼が必要な場所でもあるので注意しておきましょう。
最後に阿是穴でとどめを刺す
東洋医学には「先遠刺、後近刺」
という言葉があります。まず初めに患部から遠い場所に鍼を刺し、そのあと患部に鍼を刺す。という意味だ。
今回紹介した5つ治療法のいずれかのみでも痛みはある程度取れるのですが、まだ痛みが残るような場合は最後に痛みの残る部分に直接鍼を刺す。これによってとどめを刺します。
効かすコツは、体位によって特に痛い姿勢があればその姿勢で阿是穴を刺し、得気を得てすぐ抜鍼する。また部位によっては得気を得て10~15分間ぐらい置鍼してもよい。これで最後のとどめをさすのである。
東洋医学見聞録 上巻
阿是穴の使い方を本書ではこのように説明しています。しっかりと得気を得ることで効果を発揮することができます。
まとめ
以上が寝違えについての治療法でした。
数本の鍼でアッと驚くような効果を出せる鍼灸はやはり面白いなと改めて感じた。
自分が寝違えた時はどんどん試していきたいです。
他に多くのがあるので理論、理屈から学んで臨床で活かせるようになれば良いなと感じました!
今回はここまで。最後までお読みいただきありがとうございました。